すぎたとおるのレキシよもやま話

第18回 黒田家の政権交代 その2

黒田家の政権交代についてはまだまだ面白い話がある。
これは如水が隠居したとはいえ、まだまだ元気だったころの話である。
あるとき如水と長政が話をしていると、如水はこんなことを言い出した。

如水「お前は五つ、わしに勝ったところがある。そしてわしは三つ、お前に勝ったところがある」

長政「それは何ですか?」

如水「お前が一番優れているのは、公儀のおぼえがめでたいことだ。わしは太閤殿下のおぼえが余り良くなかったからな。それから、国の政治を完全に掌握していること。そして、金銀をたくさん持っていること。加えて、子供をたくさん持っていること。わしの子はお前一人だからな。最後に、奥方のことだ。気丈で実にけなげな女だ」

長政「なるほど私の優れているところはわかりました。では、父上の優れていらっしゃるところは?」

如水「うむ。まずは家中の者たちの人望だ。今わしが死ねば、家中の者どもは、お前に仕えるよりもわしの死の伴をしようとするであろう。それから博打の上手さ。これはわしの方が上だ。関ヶ原の戦いが一月も続いておれば、わしは九州を切り取っていたであろう。それからむごさ。これはお前も身に染みているであろう」

関ヶ原で見捨てられかかった長政は身震いをする。

如水「だがな、お前は今や領主だ。家臣だけでも一万、その家族も含めれば、五、六万の人々がお前に頼って生きている。この人々を捨てる罪と、たとえ家族であろうと人質を捨てる罪、二つを比べれば人質を捨てる罪の方が浅い。決断をするときは、このことをよっく考えてするのだ」

そして前回書いた通り、如水は長政へのスムースな政権交代のため、家臣たちからわざと嫌われながら、臨終の床についた。

そこに長政が駆けつけてくる。

如水「よく駆けつけてくれた。だが、食事を取っていないだろう? 女子供なら、父の死が悲しくて食事がのどを通らないのも当然だ。だが大名にそんなことがあってはならぬ。普段通りにしておるのだ」

長政「……いえ、食事は取っております」

せっかく臨終の際にいいことを言ったつもりなのに水を差された如水、大声で長政を叱りつける。

如水「そういうところが駄目なのだお前は! こういうときはだまって五度六度と飯を食え!」

どやされ、大飯を食わされた長政であった。


黒田軍団~如水・長政と二十四騎の牛角武者たち~(宮帯出版社)

黒田長政 (学研M文庫)

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すぎたとおる

一九七〇年十一月四日生まれ。

東邦大学理学部生物学科卒。

漫画原作者として、「コミック版日本の歴史シリーズ」(ポプラ社)、小説家として「愛の武将 直江兼続」(雷鳥社)、歴史作家として「武田信玄と二十四将」(リイド社)などの著作がある。

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石垣