すぎたとおるのレキシよもやま話

第9回 ハゲの借金王

日本の財政赤字は、ついに一千兆円を突破した。
これはどう考えても日本の危機である。

しかし歴史には、「借金をすればするほど出世した」人物が存在する。

「ハゲの借金王」こと、ガイウス・ユリウス・カエサルである。

ガイウス・ユリウス・カエサル立像(ルーヴル美術館所蔵)

カエサルはローマの共和制を事実上終わらせ、帝政への道を開いた人物として知られている。
カエサルは紀元前100年ごろにローマの貴族の家に生まれたが、順調にエリート街道を歩いたわけではない。
カエサルが青年期を過ごしたころのローマは政治的に非常に混乱しており、カエサルは政敵の手によって一度は処刑者リストに名が載った。
何とか処刑を逃れたカエサルだったが亡命を余儀なくされ、苦渋をなめた。

政敵の死によりローマに帰還したカエサルは、若き有能な政治家として手腕を振るいはじめる。
しかし活発に活動しすぎて敵を作ってしまい、ロードス島に逼塞したりもしている。

このとき海賊に捕らわれたカエサルが、
「20では安すぎる、50タレントを要求しろ」
と自分の身代金を釣り上げたエピソードは有名である。

ローマに戻ったカエサルは元老院の議席を得る。
ここからはカエサルはとんとん拍子に出世していくのだが、その過程で政治資金として使うために、 莫大な借金を背負った。
何とその総額、1300タレントは、当時のローマの国家予算の10パーセント。
11万人以上の兵士を、一年間まるまる雇える金額で、個人としては史上最大の借金であろう。

なぜここまでの借金が可能だったのか。
カエサルは、自分の出世を担保にしたのである。
「この借金を返すには、俺がもっと出世する他はない。そのためにもっと金を貸せ」
これがカエサルの殺し文句である。

弱り果てた債権者たちは、当時ローマで一番の金持ちであったクラッススに、借金の肩代わりを依頼する。
クラッススは快く引き受けるが、この縁で のちにカエサルはポンペイウスを加えた三頭政治でローマを支配するのである。

マルクス・リキニウス・クラッスス頭像(ルーヴル美術館所蔵)

さて、カエサルはその膨大な借金をクラッススに肩代わりしてもらったわけで、クラッススには頭が上がらなかったかというと、別にそんなことはなく、むしろカエサルの方が主導権を握っていたふしが見られる。
実際最後に勝ち残ったのはカエサルだったわけだし。

さて、日本もカエサルの真似をして、
「この借金を返すには……」
とやりたいところだが、日本のおもな債権者は、日本国民自身である。
どうやらこの手は使えそうにない。

カエサルは皇帝一歩手前まで上り詰めたが、日本はどこに行くのだろうか。

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すぎたとおる

一九七〇年十一月四日生まれ。
東邦大学理学部生物学科卒。
漫画原作者として、「コミック版日本の歴史シリーズ」(ポプラ社)、小説家として「愛の武将 直江兼続」(雷鳥社)、歴史作家として「武田信玄と二十四将」(リイド社)などの著作がある。

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石垣