すぎたとおるのレキシよもやま話

第6回 日本が太平洋戦争に負けない方法

仮想戦記という小説のジャンルがある。
主に太平洋戦争において、実用化されていなかったあの技術が実用化されていれば勝てたのではないか、誰それが指揮官であれば勝てたのではないかという「変数」を導入し、日本を勝利に導くという構成の小説である。
だが、設定かストーリーで相当な無理を しないと、日本を勝利に導くことは難しいのが現実である。

はっきり言おう。
「どう条件をいじろうとも、アメリカと戦ったら負ける」
のが現実である。
ので、太平洋戦争に勝とうと思ったら、「そもそもアメリカと戦わない」以外の選択肢はないのである。

実録太平洋戦争史 1巻(発売元:キープ株式会社)

ところが太平洋戦争前の日本の状況を見ると、この「そもそもアメリカと戦わない」のが非常に困難である。
あの時点でアメリカがどれだけ本気で「日本とやる気」だったのかには諸説あるが、日本の方には選択肢はなかった。

1.日本には石油の備蓄が二年しかない。

2.石油を確保するには南方に進出するしかないが、そうするとアメリカ・イギリスと戦争になる。

3.アメリカと戦争しないためには中国大陸から撤退しなくてはならないが、そうすると間違いなく陸軍のクーデターが起きて、結局アメリカと戦争することになる。

4.なら石油があるうちに奇襲で戦争をはじめよう。
というのが日本側の事情であった。

で、この状況に日本が追い込まれた理由をたぐっていくと、結論は「中国市場をめぐる日本とアメリカの対立」が、太平洋戦争の根本的な原因だったことになる。

では、この対立を解消してやれば、太平洋戦争は起こらないことになる。
そうなる機会はあったのか?

実はあったのである。

203高地奪取に挑む日本兵たち

話は日露戦争にまでさかのぼる。
日露戦争に勝利した日本は、満州鉄道の利権を手に入れた。
これに目をつけたのがアメリカの鉄道王、ハリマンである。
彼は日本に、満鉄の共同経営を申し出てきた。

日本はこの申し出をいったんは受け入れるものの、国内での猛烈な反対によりキャンセルすることになる。
だが、日本がこの申し出を受け入れていれば?

満州経営は日本とアメリカの共同でおこなわれるので、アメリカと日本は密接な関係で結ばれることになる。
おそらくはソ連という共通の敵をにらん で、日米同盟が締結されることとなろう。
そうなれば太平洋戦争はない。

ヒトラーは登場するだろうから第二次世界大戦自体は起こるが、日本はアメリカ側に立って、勝ち組として参戦である。

これもまた都合のいい「仮想戦記」かもしれないが、世の「仮想戦記」にはこれよりも都合のよいのがいくらでもあるのであった。

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すぎたとおる

一九七〇年十一月四日生まれ。
東邦大学理学部生物学科卒。
漫画原作者として、「コミック版日本の歴史シリーズ」(ポプラ社)、小説家として「愛の武将 直江兼続」(雷鳥社)、歴史作家として「武田信玄と二十四将」(リイド社)などの著作がある。

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石垣